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自己への配慮

自分にたいする配慮ということがすべてに優先する。(セネカ)

イズム実顕地づくり考(48)

小栗康平監督の十年ぶりとなる最新作映画『FOUJITA』が近々公開されると聞いた。フランスを中心に活躍した日本人画家・藤田嗣治の半生を描いたものだという。早速ネットを検索してみたら、制作スタッフの照明担当に旧知の津嘉山さんの名が記されてあった。ヘェーあの小栗さんと一緒に仕事したんだ、と自分のことのようにうれしくなった。

というのも、じつは自分にはとても大事にしているビデオテープがある。それが作家・島尾敏雄の原作『死の棘』を映像化した小栗康平監督の『死の棘』だ。
死の棘

どこにも抜け道のない夫婦の凄絶な危機をどこまでもくり返し描いたこの重苦しい映画は、海外では高い評価を得ながらも多分商業ベース的にはのらなかったに違いない。
しかしこの作品には、自分とは、夫婦とは、家族の本当の姿とは、と本当の本当を求め求めていく純粋なものが込められているように感じられて、自分の今を励まし支える羅針盤にもなっている。

小栗さんは、島尾敏雄を高校生の時から自分の支えとして読んできたという。
「自分が感じていることを一つひとつ整理していくことが、とりもなおさず自分を見つけていくことであり、それは気になる人を思うこととなんら変わらない、そんなふうにもいえるような、ひどく幼い発見があっただろうことを、私はいま思い出せる」『言葉を呑む』
ここでの「ひどく幼い発見」の箇所は、別の稿では、
「それは、ものを考えたり、感じたりすることそのものの中に、異性、異なる性の存在がしのびいっているという発見だった。好きな女の子ができ自分の心の中で何かが動く、そのことだけはよくわかった」(『近い家族・遠い家族』)
とも表現されている。まったく同感である。

そして小栗さんはそこに流れる「恥じらいというひそやかな感覚」とか「人間としての基本的な感覚」(『近い家族・遠い家族』)の欠如の回復を、二人の心の葛藤など無関心の故郷の原風景をときおりパートカラーのようにはめ込むことで図ろうとする。そこはかとなく広がっている自然の底に息づく美しさ・豊かさ・温かさを映像化に託して描いている。
またこの作品を際立たせる一連の家族の修羅場は、そうした「本当の本当を求め求めていく純粋なもの」を真面目に曲げないで貫き通そうとするなれば、その部分は必ず今の互いに離れ、相反目している社会では「歪み」や「心の葛藤」としてしか現れざるを得ない「世はまさに逆手なり」(知的革命私案一)を暗示しているようなのだ。

ふり返って自分らにも身に覚えがある。
ヤマギシズム運動の高揚期、「実顕地は一体の大きな家族である」として従来の家族観を実際的にも見直してみたことがあった。その結果、純粋な理念と現状段階とのはざまで「家族をやりたい!」、といった悲鳴にも似た衝動にかられたことがある。
こういうことだろうか。先回次のように記した。

「人は、人と人によって生れ、人と人との繋がりによらねば、自己を次代に継ぎ、永遠に生きることは絶対に不可能で、その関連を知るなれば、自己一人限りとの考えは間違いなる事が解り、お互いの間に愛情の含まれるこそ、真理に相違なく」(知的革命私案一)
とあるが、ここでの「人は、人と人によって生れ、人と人との繋がりによらねば」のくだりこそ、じつは自分らにとってももっとも混同しがちな「解りかねる」難関の箇所なのだ。

個人の主観性や家族(男女)の場所は、実顕地という場所の中で本来どのように位置づけられてくるのかといった課題である。個人の主観性や家族(男女)が主に「人と人によって生れ」の次元で育まれるとするならば、その個人の主観性や家族(男女)が除外されることなく「人と人との繋がり」の次元へどのように入っていけばよいのだろうか? いや、はたして入っていくことなのだろうか? そこが最大の難問なのだ。

つまりそこを理念研鑽としても曖昧にしたまま、ただ漫然と個々人主義の時代の流れの中で「他よりも優れたい、儲けたい」だけの醜い個が浮き立つ人間社会を助長するだけにとどまるか、
さりとてそうした現実社会を少しでも良くしようと純粋に考えて、「実顕地は一体の大きな家族である」とする理念を現実に映し行おうとして家族(男女)の次元と実顕地の次元を一気に結びつけようとしたら、必然「息苦しさ」といった矛盾にさらされるのである。

西洋近代を無前提に受け入れて一気に高度成長を成し遂げた現代社会と、その過程で捨て去ってしまった人間の基本的な感情との「近代日本の歪みの問題」への小栗さんの問いかけは今も解決していないように、ヤマギシズムという理念思想を生きるという命題も、研鑽・実践、実践・研鑽の日々連続である。
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| | 2015-11-08(Sun)15:28 [編集]