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自己への配慮

自分にたいする配慮ということがすべてに優先する。(セネカ)

わが一体の家族考(111)

琴線に触れる発言

ひょんなことから遺体を棺に納める〝納棺師〟となった主人公・大悟(本木雅弘)の葛藤や成長を描いた映画『おくりびと』(2008年公開 米国アカデミー賞外国語映画賞受賞作品)に次のようなシーンがある。
おくりびと

ある日事務所(NKエージェント)に戻ると、妻・美香(広末涼子)からの伝言が入っていた。それは大悟が子供の時に家庭を捨て出て行った父の死を伝えるものであった。
そこでの事務員・上村さん(余貴美子)とのやり取りである。『おくりびと』の台本からそのまま抜き出してみる。

“NKエージェント・内
大悟「とっくに戸籍から外れているし……。書類にサインも出来ない、って電話しといて」
大悟、電話を切る。
上村、心配そうに見ている。
上村「行ってあげて」
大悟「ホント、大丈夫ですから」
上村「お願い。お願いします」
上村、目に涙を浮かべて訴える。
大悟「……」
佐々木(社長・山崎努―引用者注)「……」
ストーブの上の薬缶から湯気が出ている。
遠い目をして上村が語る。
上村「私もね、帯広に捨てて来たの。息子を。6歳だった」
大悟「……」
上村「目先の愛が……大切だった。ママ、ママ、って泣き叫ぶ息子の小さな手を振り払って家を飛び出した」
大悟「息子さんとは?」
上村「会いたいに決まってるけど、会えない」
大悟「どうして? 会いたいなら、会いに行けばいいじゃないですか」
上村「……(首を横に振る)」
大悟「子どもを捨てた親って、みんなそうなんですか?」
上村「……」
大悟「だとしたら、無責任過ぎるよ」
上村「……。お願い、行ってあげて。最後の姿、見てあげて」
大悟、何も言わずに、出ていく。
同・外
大悟、事務所を飛び出すと……美香が立っている。
美香「……」
しかし大悟は、美香を振り切り、そのまま進む。
美香は大悟を追いかける。
美香「大ちゃん……」
それでも大悟は立ち止まらない。
何かを吹っ切ろうとしながら、ただ足を進める。
父親の影を完全に消し去りたくて、ただ足を進める。
が、けれども。
突然、大悟の足が止まる。そして……
目を閉じて自分への苛立ちを他のもので押さえつけながら振り返る。
美香「……!」
大悟は事務所に向かって、一気に駆け出す。”

そして社長に車を借りて遺体の安置場所に向かった大悟は、30年ぶりに対面した父親の納棺を自ら手掛けつつはじめて父に出会うのだ。
このNKエージェントのシーンをみなで何度も研鑽している。
なかでも事務員・上村さんの発言、最初の「行ってあげて」と二番目の発言内容「行ってあげて」との異いについてだ。
実際の映画の場面では、事務員さんの二番目の「行ってあげて」の発言は大悟から「だとしたら、無責任すぎるよ」と大声で怒鳴られながらも、ひるむことなく何かに突き動かされるように立ち上がり大悟のそばに詰め寄っての「行ってあげて」なのだ。
ここが映画『おくりびと』のクライマックスだ。
最初の「行ってあげて」では通じなかったので、めげないで再度強く「行ってあげて」をプッシュしたから大悟の心を変えたのだろうか? そんな自分よりの観方・思い・考えの同心円・延長線上だけから、はたしてこの場面は生き生きと立ち現れてくるものだろうか? 
この間の文脈で言えば、

“ふとした機縁から気付いて、心が転換して、あの我が抜けた時の何とも言えん気持ちに立ち返って、そこから出発することで、”

に重なってくるものがあるようなのだ。
じつはこの二つの発言の出どころが全く異うことが肚に落ちるというか異いを知ることで、なぜか本当にスカッとするのだった。視野が急に広く明るくなったように感じるのである。
ところがここでの〝異うことが肚に落〟ちる勘どころを掴むことがじつに難しい。〝知的革命〟といわれている所以である。
それにしても〝出どころが全く異う〟ってどんなことなんだろうか?
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