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自己への配慮

自分にたいする配慮ということがすべてに優先する。(セネカ)

今世界で起きていること

新年にあたって       
今世界で起きていること

10年ほど前に書かれた小説『ハーモニー』(伊藤計劃著)では、〝大災禍〟で核兵器が使用され世界中に放射能が撒き散らされた後、世界は消費社会から健康を第一に気遣う医療福祉社会へ移行した近未来を舞台に、最先端の科学技術を基盤に個人と社会が完全にハーモニーをみる理想社会をさもありなんと刺激的な表現で生き生きと描かれる。
ハーモニー

生命主義の健康社会では、病気というものの大半を消し去るために人々はWatchMeと呼ばれる恒常的体内監視システムを身体に入れている。そこから外れるものがあれば即座に排除される仕組み。もちろん酒タバコなどの〝不健康な〟嗜好品をたしなむとすぐバレる。WatchMeは健康コンサルタントのサーバーにも繋がってモニターされているのだから。

全てがコントロールされた社会。どこまでも親切で、どこまでも思いやりと共同体意識にあふれたセカイ。公園のジャングルジムから落ちても金属は柔らかく子供を受けとめ決して怪我をすることはない。
そんな優しさに息詰まる世界はまっぴらごめん、と反発する語り手の〝わたし〟トァンとミァハとキアン三人の女子高生の会話から物語は展開していく。

ミァハの自信たっぷりのつぶやき。「このからだも、このおっぱいも、このおしりも、この子宮も、ぜんぶわたし自身のもの。そうじゃない?」 だったら、このカラダは自分ひとりのものと宣言するためにとミァハみずから自殺を選択する……。
エーッ!〝身体髪膚これ父母に受く…〟と孔子の時代から言われているように自分の考えで勝手に自殺するって、全人幸福を願う心と真逆の私心ではないのか、とビックリ。 

そんな自分らヤマギシストにとって逆説的に聞こえる数々の臨場感たっぷりのストーリーは、我がこととして感じられてくる。
例えばその後、WatchMeを使って身体の管理を分業化して〝外注〟に出した結果、人は外部のシステムなくしてはその身体を維持することすらかなわず、そのシステムが自殺しろと命じれば、人は何の脈略もなく自分の頭を打ち抜いてしまう事件が勃発し始めたのだ。
完全専門分業社会のワナ!? 専業ではなく分業と呼べる一体の生き方とは似て非なるもの。最も取り組みがいがある課題だ。

物語ではいつしか科学技術は、人の意志を制御する研究へ、完璧な調和した社会実現のために人間の魂をいじる方向へと向かっていたのだ。調和とか完璧な人間という存在を追い求めたら、自我や自意識、自己を消し去ることによって、はじめて個人と社会との利害が一致する理想社会に達したのだ!

これって、〝無我執〟のこと? 半分重なり半分はちがうなあと、じつに興味深い。
内なる心は知らぬ間に外なる科学技術に侵されつつある。まさに今世界で起きていることだ。
すでに自分の健康状態の把握や認知能力は人工知能にはかなわない。次は内なる心の豊かさ、広さ、徳性も、心を持たないアルゴリズムに置き換えられるのだろうか。
このSF小説は問いかける。誰の心にもある〝いつになっても変わらないもの〟を消し去ることが、人類の幸福なのだろうかと。
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