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自己への配慮

自分にたいする配慮ということがすべてに優先する。(セネカ)

『虞美人草』(夏目漱石)読了

大学の哲学科を出てぶらぶらしている甲野さんには、腹違いの妹藤尾がいる。親友の外交官を目指す宗近君にも糸子という妹がいる。藤尾は父親の口約束では宗近君の許嫁になっている。その宗近君の友人に、大学卒業の時恩賜の銀時計を貰った秀才の小野さんがいる。その小野さんにも長年お世話になった恩師の娘小夜子との結婚が既定の事実とされている。
ところが小野さんは、古風で物静かな小夜子よりも傲慢で虚栄心の強い美人の藤尾の方を好いている。藤尾もまた、外交官試験に落ちてばかりしている宗近君よりも博士論文を書いている詩人の小野さんを結婚相手に見立てている。
こうした藤尾という女性を中心にした男女の話は、後半甲野さんが家も財産もすべて藤尾に譲って自分は無一物で家を出ると、小野さんを藤尾の養子にしたい継母に宣言した頃から一気にクライマックスを迎える。

宗近君が甲野さんを説得するシーン。
家を出るなら、うちへ来い。妹の糸子のために来てくれ。妹は学問も才気もないが君の値打ちをいちばん知り抜いている。
「宗近君は骨張った甲野さんの肩を椅子の上で揺り動かした」

映画『おくりびと』で音信不通だった父の死の連絡を受けた主人公が、事務員さんからの二回目の「行ってあげて」に心動かされて父のもとに向かうシーンが重なる。

続いて宗近君が小野さんを諭すくだり。
ここだよ、小野さん、真面目になるのは。真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ。真面目というのは、つまり実行の二文字に帰着するのだ。小夜子さんを連れて藤尾さんの前で関係を絶ってみせるがいい。

ふと山岸巳代蔵の発言が浮かんでくる。
「金の要らない楽しい村では、衣食住すべてはタダである。
この村にある米も衣服も、必要に応じて、必要なものが、欲しいだけ、タダで使える。魚も果物も自由に店先から取って、欲しいだけ食べられる。テキでもフライでも鰻丼もむろんのこと、酒は飲み放題、高級茶菓子も意のまま。住むのに都合の良い家、住みたい家へ、どの家ででも起居できる。
元来誰のものでもない、誰が使ってもよいのである。みなタダで自由に使うことが出来る。
当り前のことである。
誰一人として、権利・義務を言って眉をしかめたり、目に角立てる人はいない。泥棒扱い、呼ばわりする人もない。労働を強制し、時間で束縛する法規もなく、監視する人もない。
寝たい時に眠り、起きたい時に起きる。したい時に出来ることを、楽しく遊んで明け暮らす、本当の人生にふさわしい村であり、やがて世界中がそうなる。
もしこういう暮しがしたい人があるなれば、真面目にやってみられることだと思う」

そうか、真面目というのは、つまり実行の二文字に帰着するのだ。
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